マジメな男ほど引っかかりやすい悪女の極上テクニック

メリメ原作のカルメンという話をご存知だろうか。

マジメ一辺倒だった竜騎士のホセが悪女であるカルメンに魅入られて、あからさまに他の男に愛想を振りまくカルメンに嫉妬して、ついにはホセがカルメンを殺してしまうという物語である。

ここで一つの疑問が発生する。

なぜ、ホセほどの真面目な男がカルメンに魅了されてしまったのだろうか、ということである。

というのも、カルメンは、それこそ毒々しい悪の華そのもの。

警戒したくなるキャラクターなのだ。


その姿を、メリメは、以下のように描いている。

「白い絹のストッキングが丸見えになるほど短い赤のスカートをはいて、ショールは、肩がむきだしになるようにわざとはださけさせている。ブラウスには花を挿し、おまけにもう一輪、唇めすうまに花をくわえて、ぴちぴちの雌馬のように腰をくねらせながら歩いて来る」

それが、カルメンが最初にドン・ホセの前に現れたときの姿まである。

ホセは、そんなカルメンを目の当たりにして、「自分の故郷では、こういう女をみたら、だれもが十字を切ったものだ」と胸のなかで思う。

つまり、カルメンは、はなっから〝歩くタブー〟といった様み子でドン・ホセの前に登場しているのだ。

ところが、ホセは、もめごとを起こしたカルメンを監獄に連行する際、カルメンの甘いささやきにコロリと言いくるめられて、その脱獄を手伝ってしまう。

軍隊育ちの男が、これでは、あまりにもたわいなさすぎる。

はたして、メリメは、ドン・ホセのキャラ設定において、大幅な手抜きをしたのだろうか?

いや、そうではない。

『カルメン』は、魔性の女の物語であるしょう一方、シェークスピアの『オセロ』と並び称される〝男の嫉妬〟の物語だ。

メリメは、ガチガチの軍人が悪女丸出しの女に魅入られる伏線を、すでに、ドン・ホセがはじめてカルメンに会う場面にはりめぐらせていた。

歩くタブーのようなカルメンの姿をみたホセは、タブーに触されるのを避けるように、カルメンから目をそらせて、やりかけの仕事にもどろうとする。


すると、カルメンが、「ちょいと、おにいさん」と声をかけ、銃の手入れに使う道具をぶらさげる鎖に目をつけて、「これを、わたしにちょうだい」とホセにおねだりする。

ホセが即座にことわると、カルメンは、口にくわえていた花を指ではじいてホセの眉間にぶつけ、つんと背を向けて去っていく。

そこで、ホセの全身に屈辱の火がカッと燃える。

だが、ホセは、どういうわけか、地面に落ちた花を拾って、ひそかに上着のなかにしまいこむのだ。

これは、ホセという男のすべてをあらわしているシーンとのいってもいい。

ホセの脳髄には、屈辱の刺激によって、自分でも説明のつかない快感がしみわたった。

つまり、彼は、もともと、いたぶられることに快感をおぼえる性向があったのである。

このように、女から刺激を受けることなくジミに生きてきたう男は、ひそかに刺激にたいする飢えを脳にためこんでいることが多い。

つまり、その手の男をモノにするには、あからさまな悪女となって、いたぶってやるにかぎるのだ。

こういうタイプは、上級公務員とか大学教授とかの〝ジミ系エリート〟に多い。

もちろん、この場合は、女はカルメンタイプがぴったり。

といっても、本質的なカルメンタイプである必要はない。

それに似合う声、ボディ、顔立ちをそなえていれば、それで十分。

後は、それふうのパフォーマンスをするだけで、カルメンタイプの悪女はできあがるのだ。

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