ごくまれに「男の汗の臭いが堪らない」、とか「脂の乗った中年男性の加齢臭が好き」という、ちょっと変わった性癖の女性がいるが、これはごく少数なので無視したほうが良い。
ある銀座のママにどんな男性の匂いが好きか、と聞いたら意外にも「石鹸の香りがする男性が好き」との答え。
50近い酸いも甘いも経験したママなので、男っぽい匂いが好きなのかと想像していた。
しかし、それは大まちがい。
じつは、このママのひと言には、さすがは男通と思わせるだけの、女にモテる「男のニオイ」へひのたしかな洞察が秘められていたのだ。
アメリカのソーンヒルという研究者が、女性をひきつける男の匂いについてのユニークな実験をおこなっている。
さまざまな男の腋から汗を採取し、その匂いを10人ばかりの女子学生にかがせ、どの匂いの男が一番好みかを判断させた。
匂いの主は、顔も姿も隠(されているので、女子学生たちは、匂いだけで好き嫌いを決めなければならない。
結果、10人中8人が「これが好み」と答えたのは、もっとも匂いの薄 い汗だった。
バカバカしい実験のようだが、ここには深い意味がある。
男は、年をとるにつれて、若いころにはなかった、さまざまな匂こいを身にまとっていく。
俗にいう加齢臭である。
35を超えて、やけに足の裏がクサくなりはじめたというおぼえは、中年男ならば、だれでもおもちのはずだ。
チーズが好きな方にはもうしわけないのだが、あれは、まさにチーズを思わせる、もんわりとした匂いである。
あの匂いは、肌に増殖する菌の力をおさえる免疫力が低下していくことが原因となっている。
もっとも細菌をはぐくみやすい足の裏に、その免疫力低下の影響がはっきり現れる。
つまり、あれは、健康減退の匂いなのだ。
また、60、70を超えた老年男性が、軟膏のような匂いを発散させていることがあるが、あれも、トクホンの匂いがしみついたのではなく、やはり、免疫力の低下がもたらした、健康減退の匂いにほかならない。
といっても、免疫力の強弱は、年齢だけが関係しているわけではない。
免疫力には、そもそも個人差がある。
花粉症やアト ピーに悩む人の一方に、そういうアレルギーといっさい無縁の人がいる。
それは、免疫力の強さがもたらしたものだ。
それと同時に、肌に増殖する菌をおさえる免疫力に特別にめぐまれた人もいるのだ。
つまり、被験者となった女子学生たちが好んだ匂いは、強い免疫力イコール強い遺伝子をもつ男の匂いということになる。
くだんのクラブのママは、豊富な男性経験でつちかわれた鋭いカンによって、「強い遺伝子をもって生まれてきた男」の匂いを、かぎ分けていたのである。
さて、免疫力の強弱は、生まれつきの体質にかかわっている。
よって、自分の匂いを操作することは不可能だ。
しかし、クラブのママの言葉が、ちょっとしたヒントになる。
「せっけんの匂い」は、健康的な無臭を象徴する言葉で、コロンやらローションなどはやめてしまって、ひたすらシャンプーとせっけんの匂いを漂(ただよ) わせてみてはいかがだろうか?
ひょっとしたら、相手の女性は、たんに清潔な匂いと思うだけでなく、本能的に「強い男の匂い」と感じてくれるかもしれない。
実際、女性と会う前には、かならず入念に体中を洗っていく男がいる。
そう、彼の行動は、とても理にかなっているといえる。
なかなかの恋のツワモノといえそうである。